昼間が仕事でイッパイイッパイになってしまって、むむっ、これではクジャリネットの練習ができないっ、また一ヶ月も間があいたらアタイはダメな子だ、と思い、夕方、青山へ出かけるまえに、仕事場から駅までの帰り道の坂上にある貸しスタジオに電話をする。一時間だけ借りる個人練習だ。
青山で仕事がおわるのが23時。その後、23時半から0時半までスタジオで稽古をして、0時38分渋谷発の最終電車に乗り込めばだいじょうぶ。
と、バッチリなスケジュールをたてて、クジャリネットを持って出発。
「あのね、あのね、今夜、一時間だけスタジオに入ってから帰るの」
と、訊かれてもいないのに話す。
仕事を終えて、バタバタバタッと飛び出て、宮益坂上のスタジオ「NOAH」の階段を下りる。
こんばんは、ハタリでーす、と受付に突進すると店員さんが困惑顔。
「あの、もしかして二号店にご予約されたのでは…」
えっ、と、聞き返すと、どうやら渋谷に二軒スタジオがあるらしい。二号店は6月にできたばかりで、ウェブで見てそれも知っていた。ちゃんと確認して電話予約を入れたつもりが、一号店と二号店が逆だったとは!
あわてて地上に出て、歩道橋を渡り、坂を駆け下り、駅前の混雑を抜け、センター街へ突入。夏のセンター街って匂いも様子もシンドイ。お酒のあとやちょっと早い夜遊び帰りで駅に向かうひとたちを通り過ぎ、渋谷ハンズ近くの「NOAH二号店」へ。
はじめて訪れるスタジオだったので、いそいで会員登録。説明をしている店員さんがとちゅうであわてたのか、予約とちがう「ボーカルブース」という三畳程度の部屋に案内される。目の前にはキーボード。
せまっ、と思いつつもさっそくクジャリネットを組み立てる。鼻唄などうたいながら。
「すいませんっ!」
ギャッ
バタバタバタッ。店員さんが、「ボク、間違えました、本当はSスタジオです!」と勢いよく入ってきたものだから、クジャリネットを落としてしまった!
キャー!
真っ青になりながらも移動。だ、だ、だいじょうぶかな。
「Sスタジオ」は7畳程度のせまい空間にドラムが一台。さっそく用意していただいていた譜面台を組み立ててスケールの練習。さきほどのショックがどう働いたかは実のところよくわからないのだけど、音は出る。でもそろそろ一度、買ったお店で点検をしてもらったほうがいいかな。結構むちゃな労働をさせているクジャリネットですし。
もれていくヘボイ音のことなど気にせずに、ひたすらスケールの特訓。最後の15分間は曲を吹いた。やっぱり大きな音を出せるスタジオはたのしいな。
一時間630円を払って、終電目指してあわてて駅に向かう。混みあう終電車内でクジャリネットを抱えて揺れながら、ああ、こういう時間の使い方はもしかすると上手なのかもしれない、と思う。これからたまに、渋谷のスタジオを利用することにしよう。二号店はきれいだったし店員のお兄ちゃんたちもやさしかったけれど、でも、今度は間違えずに宮益坂上のスタジオにしよう。