公民館の階段、手すりに貼り紙。
手すりとしての仕事をまっとうしなさい!
さて、今日も最初から先生がミッチリと付きっきりで指導してくれるという。ありがたいことです。が、すでにプレッシャーで胃がシクシク痛む。どうにもうまくいく気がしない。
「こういうときは、大事に、つづけて練習するといいからね」
さっそくクラリネットを組み立てて吹きはじめる。
低音域と高音域をめぐりながら、徐々に出す音を増やしていく。大事にロングトーンをしながら、音を出していく……あれ……?
「音、低いねえ」
先生のクラリネットと一緒に吹くと、高音域にかかるにしたがって音程が狂ってくるのがわかる。あごの角度を変えても、気もち上向きに吹いても、なにをしてもこれ以上音が上がらない。
もーわかんないよーえーん
「あ、ちょっとよくなった」
どこがよくなったのかわかりません
「あーだめだよ、そんな音を出しちゃ」
どこがだめなのかわかんないよ
クジャリネット、アタイには難しすぎだよ!
「うーん、もっと大事にひとつひとつ吹かなくちゃ」
ちゃんと吹いてるもん!
「もん! じゃないだろうが!」
スタジオの空気がすっかり険悪に。
「ん、すこし口元が浅いね?」
え
「もうちょっと深くしてみよう」
ポー?
「お、いい音じゃないの」
ペー?
「そのまま、さっきの「ミ」を吹いてごらん」
ミー?
「明日からはその口で吹いてみようね」
はい、と返事をしたものの、悩みは尽きない。
明日になれば気もちはすこし晴れるかしら。
今日もイライラを引きずったまま、近所の八百屋で立派な桃を買って家に帰る。